
無資格業者の書類作成提出で両罰の可能性も(行政書士法厳格化)

【行政書士法改正2026】なぜ変わったのか?無資格業者によるトラブル急増とその実例
はじめに
令和8年1月1日から、行政書士法が大きく改正されます。これは単なる法律の改正ではなく、行政書士制度全体の信頼性・透明性を高め、社会のニーズに即した形へと進化させるための重大な一歩です。特に今回の改正の背景には、無資格業者による書類作成代行などのトラブルが急増したという社会的事情があります。
この記事では、改正に至る経緯とともに、実際にあった無資格業者による被害事例を具体的に紹介しながら、なぜ行政書士の業務範囲が明確化されたのかを深掘りします。
なぜ行政書士法改正が必要だったのか
行政書士の業務は、行政機関へ提出する書類の作成、事実証明に関する書類の作成、さらにはそれらに伴う相談など、社会生活に不可欠な役割を担っています。しかしながら、行政手続きの煩雑さに乗じて、無資格者が有償で書類作成を代行するケースが急増しました。
その結果、以下のような問題が発生しています:
- 内容不備による行政手続きの遅延・不許可
- 書類作成の名目で高額な報酬請求
- トラブル後に連絡が取れなくなるケース
- 法律を理解していないために不適切な対応
また、報酬の有無に関わらず、行政書士の独占業務である書類作成・提出代行を無資格者が行うことは違法であり、行政書士法第19条により禁じられています。これに違反した場合、改正後は「両罰規定」が適用され、無資格者と発注者の双方に罰則が科されることになります。
実例①:料飲組合の手続きトラブル
ある地方都市の料飲組合では、飲食店の営業許可申請や深夜営業許可などを、外部の業者に一括して依頼していました。しかし、その業者は行政書士の資格を有しておらず、書類作成を名目に報酬を得ていました。
結果として、複数の店舗で書類不備が発生し、行政機関からの是正命令が続出。中には営業開始が大幅に遅れた店舗もありました。組合としても謝罪と再対応に追われ、加盟店からの信頼が揺らぐ事態となったのです。
さらに問題だったのは、工事業者が工事代金の中に書類作成・提出代行費用を含めていた点です。これは、報酬の直接的な名目がなかったとしても行政書士法に違反します。今回の改正により、このような「報酬性を問わない違法行為」に対しても、両罰規定により依頼者・業者双方に罰則が科されることが明文化されました。
この事例は、組織的な業務外注の中に潜むリスクと、行政書士資格の重要性を改めて浮き彫りにしたものです。
実例②:補助金申請代行による高額請求
コロナ禍において需要が高まった事業再構築補助金や持続化補助金。その申請代行を「専門家」を名乗る業者に依頼した中小企業A社は、当初の見積額より遥かに高い金額を請求されました。
採択はされたものの、補助金の支給後に業者から追加で「報告書作成費用」「コンサルフィー」などの名目で次々に請求が。最終的には行政からの質問に業者が対応せず、A社の責任となって返金を求められる事態に発展しました。
行政書士であれば、責任の所在が明確であり、業務の範囲や報酬体系も法律上整理されています。無資格業者に任せたがために、事業者がそのリスクを一手に負う結果となってしまったのです。
実例③:契約書の無資格作成によるトラブル
個人事業主のBさんは、フリーランスとして業務委託契約を結ぶ際、ネットで見つけた「契約書作成代行業者」に書類を依頼しました。
しかし、その契約書には法的な根拠が乏しく、不利益な条項が多く盛り込まれていたことから、実際の契約時に相手方企業から修正を求められ、トラブルとなりました。後にその業者が行政書士資格を有していなかったことが判明。
法的文書の作成は、単なるテンプレートの挿入作業ではなく、実態と法的要件に基づいた判断が求められる高度な業務であり、それを無資格者が行えばこうした被害が発生しやすくなるのです。
実例④:相続手続きでのトラブル
高齢の親を亡くしたCさんは、近所の「手続き代行センター」を名乗る事業者に相続書類一式の作成を依頼しました。ところが、その業者は行政書士ではなく、書類に誤記が多数。
法務局から修正を求められた上、銀行手続きでも追加の書類提出を求められ、何度も足を運ぶ羽目に。最終的に行政書士に再依頼したことで手続きは完了しましたが、時間的・金銭的損失は大きいものでした。
相続や遺産分割協議書の作成は、非常にセンシティブで専門性が高い業務であり、法定の資格者に依頼すべき業務の典型です。
実例⑤:建設業許可の名義貸し
D社は、建設業許可の新規取得を目指していたが、知人を通じて「行政書士の知り合いがいる」と紹介された人物に依頼。しかし実際にはその人物は無資格で、過去の申請資料を使い回すなどの不正行為が発覚。
申請は却下され、D社は以後の審査で不利な扱いを受けることになりました。名義貸しや不正申請は、事業の信用に関わる深刻な問題を引き起こします。
共通する問題点と行政書士の役割
これらの事例には共通点があります。
- 無資格者が「コンサル」「代行」を名乗る
- 契約書の内容が不明瞭
- 書類の不備が発生しやすい
- 法的責任の所在が曖昧
行政書士は国家資格として、これらのリスクを避けるために存在します。法律に基づいた報酬体系、明確な業務範囲、個人情報保護、業務履行責任を有しており、依頼者との信頼関係を前提に業務を遂行しています。
行政書士法改正による改善点
今回の改正では、以下のような点が強化されます:
- 「使命」と「職責」が法文に明記され、社会的役割が明確化
- 無資格業者による報酬付き書類作成への規制が明確に
- 行政書士法人への両罰規定が導入され、法人の責任も問える
- 特定行政書士による業務範囲が拡大し、より複雑な案件に対応可能
これにより、依頼者は安心して行政書士に依頼できるようになり、制度全体の信頼性も向上します。
依頼者が注意すべきポイント
行政書士への依頼を検討する際、以下の点を確認しましょう:
- 行政書士名簿への登録があるか
- 報酬額が明示されているか
- 説明責任が果たされているか
- 業務に対する補償体制があるか
また、「なんでもやります」「成功報酬型」「着手金ゼロ」とうたう業者には慎重になるべきです。行政書士は法律に基づいた業務を行う存在であり、そのプロセスには当然コストがかかります。
まとめ
無資格業者による手続き代行は、表面上は便利に見えても、重大なリスクをはらんでいます。今回の行政書士法改正は、そのリスクから国民を守り、行政書士制度をより信頼できるものへと導くための一手です。
行政手続きでお困りの際は、ぜひ資格ある行政書士に相談することをお勧めします。法律に基づいた安心と信頼を、私たち行政書士は提供します。