
就労継続支援B型・グループホームの運営指導が「3年に1回以上」へ

皆さん、こんにちは。行政書士くまのみ法務事務所の松永浩行です。先月、令和8年6月8日付けで、厚生労働省が障害福祉分野の指導監督の枠組みを新たに定めました。目的ははっきりしていて、運営指導の強化です。そして就労継続支援B型と共同生活援助(グループホーム)は、その資料の中で名指しされています。
何が起きたのか
まず数字から見ていただくのが早いと思います。社会保障審議会の資料によれば、都道府県等が実施している運営指導の実施率は、全国平均で16.5%でした。最も高い自治体で48.8%、最も低い自治体は1.0%です。指針は「おおむね3年に1回」を求めているので、本来なら年33%程度になっているはずのところが、実際にはその半分ほどにとどまっていた、ということです。
この状態を改めるために出されたのが、今回の通知です。事業所数が急増しているサービス類型――就労継続支援A型、就労継続支援B型、共同生活援助、児童発達支援、放課後等デイサービス――について、3年に1回、率にして年33%以上の頻度で運営指導を実施するよう、自治体に求めています。
つまり、これまで「順番が回ってこなかった」事業所に、回ってくるようになります。
これは誰の話か
新しい指導指針は、実施頻度をこう定めています。
指定の権限を持つ障害福祉サービス事業者等が運営する事業所のうち、就労継続支援A型、就労継続支援B型及び共同生活援助を行う事業所については、3年に1回以上の頻度で実施する。その他のサービスについては、3年に1回までは求めないが、原則として指定の有効期間内に少なくとも1回以上実施する。
読んでいただくと分かるとおり、「3年に1回以上」は全サービス共通のルールではありません。B型・GH・A型に絞って課された頻度です。他のサービスは「指定の有効期間内に1回以上」で足りるとされています。もしお手元の事業がB型かグループホームなら、制度上、最も高い頻度で運営指導を受ける側にいる、ということになります。
もうひとつ、見落とされやすい定めがあります。指針は「指定後まもない障害福祉サービス事業者等については、指定後3年以内に実施する」とも書いています。開設してまだ日が浅いから当面は来ない、という読み方はできません。就労継続支援A型に至っては、新規指定の半年後を目途に初回の運営指導を実施する、とされています。
制度そのものが入れ替わっている
今回の通知には、もう一点、実務上の意味が大きい記述があります。
これまで運営指導の拠りどころだった平成26年1月23日付けの通知が、今回の通知の発出をもって廃止されました。指導指針、集団指導・運営指導マニュアル、監査指針、監査マニュアルが、いずれも新しく定め直されています。
なお、「実地指導」という呼び方が「運営指導」に変わったのは令和6年度からで、こちらは今回の改正とは別の話です。呼び名が変わっただけで中身は同じ、と説明されてきた経緯がありますが、今回は中身のほうが動きました。
事業者側から見ると、これは悪い話ばかりではありません。新しいマニュアルは、確認する文書の範囲をこう限定しています。
確認する文書は、原則として運営指導の前年度から直近の実績に係る書類とします。
利用者の記録等の確認は特に必要とする場合を除き、原則として3名以内とします。
何年も前まで遡って全利用者分を出せ、という話にはならない、ということです。確認される項目も「確認項目及び確認文書」として整理・公表されました。何を見られるかが、以前より分かるようになっています。
ただし同じマニュアルには、不正が見込まれるなど詳細な確認が必要と判断される場合は、この範囲に限定せず必要な文書を求める、とも書かれています。範囲が限定されるのは、あくまで通常の運営指導の話です。
行政の側は、どこを見ているのか
私は消防の予防査察を約30年、5,000件ほど担当してきました。分野は違いますが、行政が事業所の書類を審査するときの構造は、驚くほど共通しています。
審査する側が見ているのは、整った計画書そのものではありません。その計画書のとおりに、日々の記録が積み上がっているかです。立派な計画書があって記録が伴っていない事業所と、計画は簡素でも記録が揃っている事業所とでは、後者のほうが評価されます。前者は「書いただけ」であることが、記録の側から見えてしまうからです。
たとえば業務継続計画(BCP)です。ひな形を埋めた計画書が一部あっても、研修や訓練を実施した記録が一件もなければ、そこは早い段階で確認が入ります(BCPそのものの落とし穴についてはBCP未策定減算は遡って適用されますでも詳しく書いています)。支援記録、勤務表、会議録、ヒヤリハット報告――これらの間に食い違いがないか。ここが実質的な着眼点です。
そして、ここが今回の改正と直結します。確認対象が「前年度から直近」ということは、通知が届いてから作れる書類ではない、ということです。前年度分は、もう過ぎています。
事業の損得に置き換えると
準備が足りないまま運営指導を受けると、その場の指摘では終わりません。改善報告書の提出を求められ、改善が確認されるまでやり取りが続きます。管理者とサービス管理責任者の時間が、そこに持っていかれます。
ここで、誤解されやすい点をひとつはっきりさせておきます。記録の不備があれば、すぐに報酬を返さなければならない――と身構えている方がいますが、新しいマニュアルはこう整理しています。
基本報酬部分については運営基準違反(例:サービス記録の不備等)だけでは、報酬の返還や過誤調整の根拠とはなりません。返還が必要となるのは、報酬基準に違反している場合です。
つまり、記録の不備そのものは是正の対象であって、ただちに返還には結びつきません。返還が問題になるのは、サービスを提供していないのに請求した、減算すべきところを減算せずに請求した、といった報酬基準側の違反です。そして不正が疑われる場合は、運営指導ではなく監査に移り、そこで指定取消を含む行政処分が検討されます。
このように、運営指導と監査は地続きですが、別のものです。むやみに怖がる必要はありません。ただし、加算については話が別で、算定要件を一つでも満たしていなければ是正を求められます。加算の要件と記録が結びついていない事業所は、ここで足をすくわれます。
一方で、記録が揃っていることの価値は、減点を防ぐことだけではありません。工賃向上計画の記録、サービス管理責任者を含む会議の記録、研修・訓練の記録は、そのまま加算の算定根拠になります。運営指導のために整えた記録が、取りこぼしていた加算の裏づけとして使える、という場面は珍しくありません。
備えを「指導のための作業」と捉えると、コストにしか見えません。「取れるはずの加算を取り切るための作業」と捉え直すと、同じ手間の見え方が変わります。実施頻度が上がる以上、どちらにせよ避けては通れない作業です。
今日できる一歩
制度が先月動いたばかりですので、情報が追いついていないのはむしろ当然です。まず、次の2つから始めてみてください。
ひとつは、前年度から直近までの記録を並べて、計画書と突き合わせてみること。BCP、避難訓練、研修、会議録。計画に「年2回実施」と書いたことが、記録の上でも2回になっているか。それだけでも、当日の景色はかなり変わります。
もうひとつは、所轄の自治体が公開している自己点検シートを取り寄せることです。新しいマニュアルも、事業者による自己点検を前提に組み立てられており、多くの自治体がチェックリストを用意しています。事前通知の時期や当日の進め方には自治体ごとの運用差がありますので、そこも併せて確認しておくと確実です。
ご相談ください
当事務所では、ご依頼をお受けした際に所轄の指定権者へ直接確認を取り、その自治体の運用に合わせて記録の整え方をご提案しています。「所轄に聞いてください」で終わらせるつもりはありません。
運営指導の通知が届いてからのスポット対応も、日頃から備えておく顧問契約も、どちらも承っています。まずは無料相談で、お手元の記録で足りるかどうかを一度見せてください。障害福祉サービスの支援内容はこちらにまとめています。広島・山口を拠点に、オンライン顧問で全国の事業者に対応しています。
※本記事は2026年7月時点の情報に基づいています。引用した指導指針・マニュアルは令和8年6月8日付け障発0608第1号の別添です。運営指導の事前通知の時期や当日の確認方法には、指定権者である自治体ごとに運用の差があります。詳細は所轄の指定権者にご確認いただくか、当事務所までご相談ください。
