DNAR(延命を望まない意思)と施設|救急と心肺蘇生、事前に決めること【急変対応②】

皆さん、こんにちは。行政書士くまのみ法務事務所の松永浩行です。

シリーズ第2回は、急変対応でいちばん難しい論点、DNARを取り上げます。DNARとは「Do Not Attempt Resuscitation」——心肺停止のときに、心肺蘇生を試みないことを指します。「延命はしないでほしい」とご本人・ご家族が望んでいる入居者が、心肺停止になった。そのとき、施設はどうすべきか。結論から言えば、施設が単独で「蘇生しない」と判断・実行することはできません。 平時の”備え”がすべてです。

目次

まず、ACPという考え方(厚労省ガイドライン)

DNARを語る前提として、ACP(アドバンス・ケア・プランニング/人生会議)があります。厚生労働省の「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」(平成30年3月改訂)は、本人が、家族や医療・ケアチームと、人生の最終段階の医療・ケアについて、あらかじめ繰り返し話し合うことの重要性を示しています。

ポイントは、DNARは”紙一枚”や”家族の一言”で決まるものではない、ということです。本人の意思を中心に、医師を含む医療・ケアチームと家族が、話し合いを重ねて確認していくプロセスが求められます。本人の気持ちは変わることもあるので、状況の変化に応じて何度も見直す。ここが土台です。

現実:119番すれば、原則、蘇生・搬送される

ここで、施設が必ず知っておくべき現実があります。第1回でも触れたとおり、119番通報があれば、救急隊救急活動として、原則、心肺蘇生を実施し、医療機関へ搬送します。 たとえDNARの意思があっても、その場に医師の指示や、地域で定められた手順(プロトコル)がなければ、救急隊は蘇生を行うのが基本です。

しかも、この対応は地域によって異なります。 たとえば東京消防庁では、本人が心肺蘇生を望まない意思をかかりつけ医等に確認し、かかりつけ医等が45分以内に到着できる場合は到着まで待機して直接引き継ぐ、といった手順が示されています。一方、こうしたプロトコルが整っていない地域もあります。「うちの地域では、どうなっているのか」を、平時に確認しておくことが欠かせません。

だから、施設が平時にやること

DNARをめぐって施設が備えるべきは、次の点です。いずれも「施設が判断する」のではなく、「正しいプロセスを整える」ことです。

  1. 本人の意思を、ACPのプロセスで確認する。 本人・家族・かかりつけ医(医療・ケアチーム)で話し合い、意思を共有する。施設だけで完結させない。
  2. 書面にする。 話し合いの内容、本人の意思、医師の指示を、書面として残す。口頭の「延命しないで」だけでは、いざというとき機能しません。
  3. かかりつけ医・地域の救急との連携を確認する。 心肺停止時に誰へ連絡するか、地域のプロトコルはどうか。ここが実務上いちばん抜けやすい部分です。
  4. 職員全員で共有する。 どの入居者に、どういう意思と手順があるのか。夜勤の職員が知らなければ、意味がありません。
  5. 記録する。 話し合いの経緯も、当日の対応も、必ず記録に残す。

書面があっても「万能」ではない――だから見直す

注意したいのは、DNARの書面があれば必ず希望どおりになる、とは限らないことです。前述のとおり、地域の救急のプロトコルが整っていなければ、119番通報で救急隊は蘇生に動きます。また、書面にもいくつかの性質があり、ACP(話し合い)の記録なのか、医師による指示なのかで、実務上の扱いが変わります。

さらに、本人の気持ちは変わります。 一度決めたら固定、ではなく、状態やライフイベントの変化に合わせて繰り返し確認し、書面を更新していく——これがACPの本質です。「作って終わり」にしないことが、いざというときに効きます。

職員一人に、背負わせない

DNARの場面は、職員にとって精神的な負担が非常に大きいものです。目の前で心肺停止になった入居者に、蘇生をするのか・しないのか——その重い判断や行動を、夜勤の職員一人に背負わせてはいけません。

だからこそ、①事前の合意と書面、②連絡すべき相手(医師・家族・救急)と手順、③職員全員での共有、を仕組みとして用意しておく。職員は「決められた手順のとおりに、連絡し、記録する」だけでよい状態にする。これは、利用者のためであると同時に、職員を守るためでもあります。

業際の一線:施設・行政書士は「医療判断」をしない

ここは、はっきりさせます。DNARは、医療と倫理の領域です。 「蘇生するかどうか」という医療上の判断を、施設や行政書士が行うことはできません。それは、本人の意思を中心に、医師が関わって決めるものです。同じく、万一の法的な責任をめぐる個別の判断は、弁護士の領域です。

では、当事務所は何ができるのか。合意形成のプロセスを整え、書面と記録の様式を作り、職員が動ける仕組みに落とす——ここです。当事務所には、保健師・看護師・救急救命士の有資格者が在籍し、医療・救急の現実を踏まえたうえで、行政書士として書面・記録・運営体制を整えられます。医療(医師)と、書面・体制(行政書士)と、その間をつなぐ多職種の視点。この三つが一つの窓口でそろうのが、当事務所の強みです。医療判断そのものは、必ず主治医に委ねます。

これは、家族とのトラブルを防ぐ話でもある

DNARの備えが甘いと、いざというとき、「なぜ蘇生したのか」「なぜ蘇生しなかったのか」という、ご家族との深刻なトラブルに発展しかねません。話し合いの記録と、本人の意思を示す書面があるかどうかが、施設を守ります。この「家族とのトラブル防止」は、シリーズ第5回で改めて詳しく扱います。

次の一歩

まず、DNARに関する入居者の意思が、口頭のままになっていないかを確認してください。書面と、医師の関与と、職員の共有と、地域の救急手順。この4つが欠けていれば、そこが備えの出発点です。急変時の初動そのものは第1回(入居者の急変、救急車を呼ぶ前に)を、体制づくりのご相談は福祉施設の運営のご相談からどうぞ。

出典・参考(2026年9月時点)

対応は地域・医療機関により異なります。最新は各機関でご確認ください。

※本記事は一般的な情報提供です。心肺蘇生の実施可否など医療・倫理に関わる判断は、本人の意思を中心に医師・医療機関が関わって決めるものです。法的な効力や紛争の個別判断は弁護士の領域です。個別の対応は、主治医・所轄・各専門家への確認のうえ進めてください。

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