福祉の手続きは「正解の丸写し」では通らない|トヨタの”なぜ5回”の考え方

皆さん、こんにちは。行政書士くまのみ法務事務所の松永浩行です。

先日、通っている経営大学院(MBA)の、前期の履修科目が終わりました。レポートに追われた日々でしたが、終わってみると、早いものです。今日は、学びながらあらためて感じたことを書きます。それは、「結果(解答)よりも、そこに至るまでの”考え方”のほうが大事だ」ということ。これは、福祉の手続きや運営の現場と、まっすぐつながっています。

目次

「なぜ」を5回——トヨタ生産方式の考え方

“考え方”の大切さを語るとき、私がいつも思い出すのが、トヨタ生産方式の「なぜを5回繰り返す」という有名な話です。トヨタ生産方式を確立した大野耐一さんが、問題が起きたとき、「なぜ?」を重ねて、本当の原因(真因)にたどり着け、と説いたものです。

機械が止まった。「なぜ?」→ ヒューズが切れた。「なぜ?」→ 潤滑不足。「なぜ?」→ ポンプの不調。「なぜ?」→ 軸の摩耗。「なぜ?」→ ろ過器が無く、切粉が入っていた。ここまで来て、はじめて「ろ過器を付ける」という本当の対策にたどり着く——という話です。「5回」は目安で、大事なのは回数ではなく、“結果”の一つ手前にある”なぜ”を掘り下げる姿勢そのものです。

福祉の手続きは、”正解の丸写し”では通らない

この考え方は、福祉の手続きで、とてもよく効きます。

指定申請や変更届、加算の届出。これらを準備するとき、他県の様式や、ネットで拾った書き方を「そのまま丸写し」して、当日「うちの自治体のものと違う」となる——これは、本当によくある失敗です。丸写しは、いわば”結果”だけを真似ること。「なぜ、その書類が要るのか」「なぜ、この要件があるのか」という考え方が抜けているので、少し条件が変わると、途端に崩れます。

制度の運用は、自治体によって驚くほど違います。だからこそ、正解(様式)を暗記するのではなく、「なぜこれが求められているのか」という考え方をつかむことが、遠回りに見えて、いちばん確実なのです。

たとえば、ある加算を「隣の事業所が取っているから」という理由だけで算定してしまう。これは、”結果”だけを真似た典型です。要件の「なぜ」を理解していないので、それを裏づける記録がついてこない。そして運営指導で、さかのぼって返還を求められる——という流れになりがちです。逆に、「なぜこの加算があり、なぜこの要件が設けられているのか」を分かっていれば、必要な記録は、日々の支援の中で自然と残ります。同じ「加算を取る」でも、結果を真似ただけか、考え方を持っているかで、数年後に、まるで違う差になって表れます。

運営指導も加算も、「なぜ」を掘ると強くなる

「なぜを5回」は、運営指導や加算の場面でも力を発揮します。

たとえば、加算の返還。「なぜ返還になった?」→ 要件を満たした記録がなかった。「なぜ記録が無い?」→ 記録の様式・タイミングを決めていなかった。「なぜ決めていない?」→ その加算を「なぜ算定できるのか」を、現場が理解していなかった。……と掘ると、本当の原因は”記録の書き忘れ”ではなく、”なぜその記録が要るのかの理解不足”だと分かります。表面だけ直して「次から書いてね」で終わると、また抜けます。

BCP(業務継続計画)も同じです。ひな形の空欄を埋めるのは”結果”。「なぜ、この手順が要るのか」を考え抜いていなければ、本番では動きません。「決まりだから」で止めず、「なぜ」を一段掘る。 それだけで、書類は”提出物”から”本当に使えるもの”に変わります。中身の伴わない計画が通用しない話は、ひな形BCPが運営指導で通らない理由にも書きました。

「点」が「線」になるのは、考え方が身についたとき

学びながら、もう一つ強く感じたことがあります。個別の知識(点)は、そのままでは、別の場面で使えません。「なぜそうなるのか」という考え方が身について、はじめて、点と点が線でつながり、新しい状況にも応用できるようになります。

福祉の制度は、報酬改定のたびに変わります。個別の正解を暗記しているだけの事業所は、改定のたびに右往左往します。 けれど、「なぜこの制度があるのか」「なぜこの要件が設けられたのか」という考え方をつかんでいれば、改定の中身を見たときに、「これは自社にこう効く」と、自分で読み解けるようになる。変化に強いのは、いつも、考え方を持っている人です。

「なぜ」を掘るときの、3つの注意点

「なぜを5回」は、やり方を間違えると、かえって迷子になります。大事だと思う注意点が、3つあります。

  • 人を責めない。 「なぜ書き忘れたの」と職員個人を追い詰めると、原因は「本人の不注意」で止まり、そこで思考が終わります。問うべきは人ではなく、”仕組み”です。「なぜ、書かなくても業務が回ってしまう流れなのか」。ここを問えば、その職員が替わっても抜けない仕組みにたどり着きます。
  • 事実で問う。 推測で「なぜ」をつなぐと、答えも空想になります。実際の記録や、日々の運用の事実に沿って、一段ずつ下りていく。
  • 筋がずれたら、出発点に戻る。 掘るうちに本題から外れることがあります。「この対策で、最初の問題は本当に消えるのか?」と、ときどき立ち返る。

この3つを守るだけで、「なぜを5回」は、精度の高い道具になります。逆に、人を責める道具に使うと、現場は「なぜ」を言わなくなり、本当の原因は見えなくなります。

職員が”なぜ”を分かっていると、運営指導でも強い

運営指導の当日は、書類の確認だけでなく、管理者やサービス管理責任者(サビ管)への聞き取りがあります。そのとき、いちばん強いのは、職員が「なぜ、この記録を取るのか」「なぜ、この支援をこうしているのか」を、自分の言葉で説明できることです。

マニュアルの丸暗記は、少し角度を変えて聞かれると崩れます。でも、”なぜ”を理解していれば、どんな聞かれ方をしても、地に足のついた答えができる。取りつくろう必要がありません。日ごろの運営と記録が「なぜ」で裏打ちされていれば、聞き取りは怖くないのです。

これは、事業所を特定の誰かの記憶に頼らない形にしていく、ということでもあります。人に紐づいた”やり方”は、その人が辞めれば消えます。けれど、みんなで共有された”考え方”は、組織に残る。だから私は、ご相談を受けるとき、「正解」を渡すだけでなく、その”なぜ”を一緒に確認するようにしています。

学びを、相談者に返す

正直に言えば、レポートに追われるのは、なかなか大変でした。それでも学び続けるのは、学んだことを、そのまま事業にアウトプットできるからです。そして、相談してくださる方に、それをフィードバックできる。この環境は、本当にありがたいと思っています。

ご相談を受けるとき、私は「正解」だけを渡したくはありません。「なぜ、そうするのか」という考え方ごと、お渡ししたい。 そのほうが、その事業所の中にずっと残り、次に制度が変わったときにも生きるからです。結果ではなく、考え方を。これからも、そこを大事にしていきます。

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