入居者の急変、救急車を呼ぶ前に|施設が決めておく初動の仕組み【急変対応①】

皆さん、こんにちは。行政書士くまのみ法務事務所の松永浩行です。

夜勤の時間帯、入居者の様子がいつもと違う。呼吸が浅い、反応が鈍い——このとき、その場にいる職員一人に「救急車を呼ぶかどうか」の判断を、丸ごと背負わせていないでしょうか。 今日から全5回で、グループホームなど入居系施設の「もしも(急変・看取り・感染症・家族対応)」への備えを、順にお話しします。第1回は、救急車を呼ぶ”前”に、施設として決めておくべき初動の仕組みです。

目次

これは、どの施設の話か

対象は、入居者を24時間預かるグループホームや入居系の施設で、急変時の対応が「その日の担当者の判断」に委ねられている施設です。「経験のある職員なら大丈夫」で回している間は、たまたま無事なだけかもしれません。人は替わり、夜間は少人数です。判断を個人に依存した体制は、いつか必ずどこかで崩れます。

大原則:迷ったら、119番をためらわない

まず、いちばん大事なことを。命に関わりそうなら、迷わず119番通報する。 これが原則です。「様子を見よう」で救命の機会を逃すことが、いちばん避けたい失敗です。

ここで、施設として知っておくべき事実があります。119番通報があれば、救急隊は救急活動として、原則、心肺蘇生を実施し、医療機関へ搬送します。 これは、たとえ本人や家族が「延命を望まない」と言っていた場合でも、原則として同じです(この「延命を望まない意思=DNAR」の扱いは、非常に重要なので第2回で詳しくお話しします)。

つまり、「呼べば蘇生・搬送される」のが基本。だからこそ、”呼ぶ・呼ばない”を現場で迷わないための準備を、平時にしておく必要があるのです。

呼ぶ前に、施設が決めておく「3つ」

急変時に強い施設は、次の3つを、あらかじめ決めています。

  1. 初動フロー(誰が・何を・どの順で)。発見した職員は誰に報告するか、誰が状態を確認するか、どういう状態なら即119番で、どういう状態ならまずかかりつけ医・訪問看護に連絡するか。夜間・休日・職員が一人の時間帯でも動ける形にしておく。
  2. 入居者一人ひとりの、医療・急変時の情報。持病、常用薬、かかりつけ医、救急のときに搬送を希望する病院、そして本人・家族の意思。これを、その場ですぐ取り出せるように整理しておく。
  3. 記録。いつ、どんな様子で、誰が、何をしたか。急変対応では、この記録が、後の家族への説明でも、行政への報告でも、決定的に効きます。

この3つがあれば、当直の職員は慌てず、「決められた手順のとおりに動く」だけで済みます。判断の重さを、個人から仕組みへ移す。これが第一歩です。

「即119番」のサインは、医療職と一緒に決める

どんな状態なら迷わず119番か——この目安は、施設ごとに、医療の知識を持つ人と一緒に具体化しておくのが安全です。一般に、意識がない・反応が乏しい/呼吸がおかしい(していない・極端に浅い)/けいれんが続く/大量の出血/顔色や唇の色が急に悪い/ふだんと明らかに違う急変——こうしたサインは、迷うより先に119番、が基本とされます。

ただし、これはあくまで一般的な目安で、個々の利用者の持病や状態によって、見るべき点は変わります。 だからこそ、「うちの利用者なら、どこで線を引くか」を事前に医療職と一緒に決めておく。ここを現場の当日判断に任せないことが、初動の質を左右します。

「呼んだ後」まで、決めておく

119番したら終わり、ではありません。誰が救急隊に状況を説明するか、誰が病院へ付き添うか、そのとき施設に残る利用者は誰が見るか。搬送先で医師に渡す情報(持病・常用薬・かかりつけ医・本人や家族の意思)を、すぐ取り出せる形にまとめてあるか。そして、家族へ、いつ・誰が連絡するか。ここまでを一続きの手順にしておくと、当日の混乱がぐっと減ります。

「医療の目」を入れて仕組みを作る

とはいえ、「どういう状態なら即119番か」を、医療の知識なしに線引きするのは簡単ではありません。ここは、医療の視点が要るところです。

当事務所には、保健師・看護師・救急救命士の有資格者が在籍しています。急変時に現場で何が起き、救急隊が何を見て、どこで判断が分かれるか——その視点を入れて、施設の初動フローを組み立てられます。あわせて、行政書士として、同意書面や記録の様式まで整えます。法律・許認可・経営・ファイナンス、そして医療の視点を、一つの窓口でまとめて相談できる——ここが、当事務所の強みです。

ただし、はっきりさせておきます。個別の医療行為の要否を判断するのは医師であり、私たち施設・行政書士ではありません。 私たちの役割は、「医師や救急につなぐまでの、施設の動き方と記録の仕組み」を整えることです。医療判断そのものは、必ずかかりつけ医・医療機関に委ねます。

これは「経営の備え」でもある

急変対応の遅れや判断のばらつきは、入居者の命に関わるだけでなく、家族とのトラブルや、施設の責任問題に直結します。「なぜすぐ呼ばなかったのか」「なぜ呼んだのか」——後からそう問われたとき、決めておいた手順と、残した記録があるかどうかで、施設の立場はまったく変わります。

体制づくりには手間がかかります。ですが、守るのは入居者の命と、職員が安心して働ける環境、そして事業の継続です。ここは、お金と手間をかけてでも、整えておく価値があります。

次の一歩、そしてシリーズの予告

まず、自施設の「急変時の初動フロー」が、紙になっていて、夜勤の職員全員が動けるかを確認してください。頭の中や、一部のベテランの経験だけに頼っていないか。夜間の動き方はグループホーム夜間の地震対応でも触れています。

次回(第2回)は、今回ふれたDNAR(延命を望まない意思)を取り上げます。「延命はしないで」と言われている入居者が心肺停止になったとき、施設はどうすべきか。救急車と心肺蘇生をめぐる、いちばん難しい論点です。

急変対応の仕組みづくりは、グループホーム・福祉施設の運営のご相談から、今の状況を一言添えてご連絡ください。

出典・参考(2026年9月時点)

対応は地域・医療機関により異なります。最新は各機関でご確認ください。

※本記事は一般的な情報提供です。個別の医療行為の要否・救急対応は、かかりつけ医・救急隊・医療機関の判断によります。法的な紛争の個別解決は弁護士の領域です。個別の対応は、主治医・所轄・各専門家への確認のうえ進めてください。

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