地震でインフラが止まったら|福祉施設が”数日、来ない”をどう耐えるか

皆さん、こんにちは。行政書士くまのみ法務事務所の松永浩行です。

大きな地震が起きた直後、就労継続支援B型やグループホームに、救急車も消防も、すぐには来ません。 支援物資も、数日は届かない。その間、利用者を抱えて、施設は自力で持ちこたえるしかない——福祉のBCP(業務継続計画)は、この厳しい前提から始まります。今日は、地震でインフラ(電気・水・物流・医療)が止まったとき、福祉施設が具体的に何に困り、何を備えるべきかを、一次情報の出所つきで整理します。

目次

現実:救急も消防も「72時間」は来ない前提で

災害時の救助には「72時間の壁」があります。内閣府の資料でも、阪神・淡路大震災で、倒壊家屋から救助された人の生存率は1日目が74.9%だったのに対し、72時間を過ぎた4日目には5.4%まで下がっています。だからこそ、緊急の救助・救急はこの3日間に集中し、個々の施設への外部支援は、どうしても後回しになります。

つまり福祉施設は、「119番すれば助けが来る」ではなく、「最初の数日は、施設内の職員だけで利用者を守る」という前提で備える必要があります。ここが、一般家庭の防災と決定的に違うところです。

食料・水は「3日でも足りない」現実

支援物資が本格的に届き始めるのは、早くても発災3日後ごろ。しかも、その3日目でも足りないのが現実です。2016年の熊本地震では、発災3日目に避難者数がピーク(約18.4万人)を迎えた一方、同じ日の食料供給は約13万食で、大きく不足していました。

だから、備蓄は最低3日分、できれば1週間分(南海トラフのような広域災害では「1週間以上」が望ましい)が目安です。そして福祉施設では、単純な人数分では足りません。利用者の食事は、きざみ食・とろみ・アレルギー対応・経管栄養など、配慮の要る方がいるからです。「普通のカップ麺と水」だけでは、飲み込めない利用者が出ます。水も、飲用に加えて、薬を飲む・とろみをつける・衛生に使う分まで見込む必要があります。

いちばん見落とされ、いちばん命に関わる「トイレと排泄物」

断水すると、水洗トイレは使えません。ここが、福祉施設で最も深刻になりがちな問題です。

内閣府の「避難所におけるトイレの確保・管理ガイドライン」も指摘するとおり、トイレが排泄物であふれて不衛生になると、細菌による感染症や害虫が発生します。さらに深刻なのは、その連鎖です。トイレが汚くて使うのをためらう → 水分や食事を控える → 脱水や、エコノミークラス症候群のような健康障害を引き起こす。トイレ問題は、我慢の話ではなく、命に直結するのです。

福祉施設では、これに加えて次の備えが要ります。

  • 携帯トイレ(凝固剤付き)と、排泄物を安全に保管・処理する袋を、利用者+職員の人数×日数分。断水は数日〜週単位で続く前提で。
  • おむつ・尿とりパッドを、ふだんの使用量から逆算して十分に。物流が止まれば、追加購入はできません。
  • 仮設・簡易トイレは、高齢者や障害のある方には使いにくい(狭い・暗い・和式・段差)。手すりや明かり、車いすでの動線まで、事前に想定しておく。

「水と食料」は意識されても、「トイレと排泄物」は後回しにされがちです。ですが、被災地の記録を見るほど、ここを備えているかどうかが、数日を持ちこたえられるかを分けます。

病気・薬・医療的ケア――止まると、すぐ効いてくる

福祉施設には、持病のある方、医療的ケアの必要な方がいます。インフラが止まると、ここが早い段階で効いてきます。

  • 常用薬:かかりつけ医も薬局も機能しない前提で、予備の薬をどれだけ確保できるか。お薬手帳の写しなど、薬の情報をまとめておく。
  • 停電と体温管理:冷暖房が止まれば、高齢の利用者は熱中症や低体温のリスクが高まります。毛布、うちわ、保温シートなどの備え。
  • 医療機器の電源:吸引器など電源が要る機器があれば、停電時の電源(予備バッテリー等)をどう確保するか。
  • 感染症:断水・過密・衛生の低下は、感染症の温床です。手指消毒、マスク、汚物処理の手順まで含めて備える。ここは、福祉のBCPで求められる感染症対策と地続きです。

通信が途絶する――安否確認と「受援」の段取り

インフラが止まると、電話もつながりにくくなります。そのとき必要になるのが、次の段取りです。

  • 利用者の安否を、家族へどう伝えるか。 電話が通じない前提で、災害用伝言板やメッセージアプリなど、複数の連絡手段を決めておく。
  • 職員の参集。 誰が来られて、誰が来られないか。少人数で回す時間帯を想定し、「その場にいる人だけで初動できる」状態にしておく。
  • 「受援」の段取り。 どうしても自力で持ちこたえられないとき、誰に・どこに支援を求めるか(自治体、福祉避難所、関係機関、同業者間の応援)。支援を”受ける”準備を平時にしておくと、数日を超えても持ちこたえられます。

助けを呼ぶことも、立派な備えです。「自力で数日」と「早く受援につなぐ」の両方を、あらかじめ決めておきましょう。

だから、福祉のBCPは「自力で持つ数日」を数字にする

以上をまとめると、福祉施設の地震対策とは、「救急も物資も来ない数日を、施設内だけで、利用者の特性に合わせて持ちこたえる」ための準備です。食料(配慮食を含む)・水・携帯トイレ・おむつ・常用薬の予備・停電時の電源・衛生用品を、利用者と職員の人数×日数で具体的な数字に落とし、「誰が・何を・どの順で」動くかまで決めておく。これが、ひな形を埋めただけのBCPと、実際に動くBCPの違いです。夜間・少人数の時間帯の動き方は、グループホーム夜間の地震対応にもまとめています。

体制づくりや備蓄には、お金も手間もかかります。ですが、利用者の命と、事業の継続がかかっている以上、ここは「お金をかけてでも、やる」ところです。

最低限、施設でそろえたいもの(人数×日数で)

優先度の高い備えを挙げます(利用者の状態に合わせて調整してください)。

  • (飲用+服薬・とろみ・衛生用)と、配慮食(きざみ・とろみ・アレルギー対応・経管栄養など)
  • 携帯トイレ・凝固剤・汚物用の袋おむつ・尿とりパッド(ふだんの使用量から逆算して十分に)
  • 常用薬の予備、お薬手帳の写し、手指消毒・マスクなどの衛生用品
  • 停電対策(明かり・電池・医療機器の予備電源)と、保温・冷却の用品

「あって困らない」ではなく、「無いと利用者の命に関わる」ものから、人数×最低3日分でそろえるのが基本です。

次の一歩

まず、「うちの施設は、電気も水も物流も止まったとき、今の備蓄で何日、自力で持つか」を、数字で棚卸ししてください。多くの施設で、「3日も持たない」ことに気づきます。そこが分かれば、何をどれだけ足せばいいかが見えます。出典・参考(2026年9月時点)

数値・想定は公表時点のものです。最新は各機関でご確認ください。

※熊本地震の避難者数・食料供給は内閣府等の記録にもとづく2016年当時の値です。本記事は一般的な情報提供で、必要な備蓄量・医療的配慮は施設の規模・利用者の状態により異なります。医療・服薬の個別判断は主治医等の専門職に、個別の対応は所轄への確認のうえ進めてください。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!
目次