防災の日に、福祉施設で見てほしいこと|逃げられない人をどう守るか

皆さん、こんにちは。行政書士くまのみ法務事務所の松永浩行です。

9月1日は「防災の日」です。今日は、売り込みは抜きで、就労継続支援B型やグループホームなど、福祉の現場で働く皆さんに、防災の日に立ち止まって考えてほしいことを書きます。福祉施設の防災には、一般の会社とは違う、特有の難しさがあるからです。

目次

なぜ、9月1日が「防災の日」なのか

防災の日が9月1日に定められたのには、理由があります。1923年(大正12年)のこの日、10万人以上が犠牲になったとされる関東大震災が起きました。また、9月上旬は暦の上で「二百十日」にあたり、台風が多く襲来する時期でもあります。地震と風水害——日本の二大災害を思い出す日として、1960年(昭和35年)に「防災の日」が制定され、8月30日から9月5日までが「防災週間」とされています。

年に一度、災害のことを思い出す区切りの日。ふだんは後回しになりがちな備えを、この日だけは、少し立ち止まって見直す。それが、この日の意味だと思います。

福祉施設の防災は、一般の会社と何が違うのか

いちばん大きな違いは、利用者が、自分の力だけでは逃げられないことがあるという点です。

一般の会社なら、「全員、外へ避難」で足りる場面でも、福祉施設ではそうはいきません。歩行に介助が要る方、車いすの方、大きな音や急な変化に強い不安を感じてしまう方——一人ひとり、避難の方法もスピードも違います。 しかも、夜間や早朝は、少人数の職員で、それを担わなければならない。福祉施設では、「逃げる」こと自体が、支援そのものなのです。

だからこそ、福祉の防災は、一般的なマニュアルをなぞるだけでは足りません。「この人は、誰が、どうやって連れて逃げるのか」まで具体的に決まっていて、はじめて機能します。ここが、福祉施設の防災の核心です。

防災の日に、施設で見てほしい3つのこと

消防で30年、現場を見てきた経験から、防災の日に確認してほしい3つを挙げます。

1. 利用者一人ひとりの「避難方法」が決まっているか

利用者ごとに、避難に必要な支援は違います。「誰を、誰が、どの順番で、どうやって避難させるか」が、名前入りで決まっているでしょうか。とくに、自力での避難が難しい方については、人手が足りない夜間でも動けるかまで想定しておく必要があります。この個別の避難の想定が、福祉施設の備えの中心です。

2. 夜間・休日、手薄な時間の体制はどうか

災害は、職員がそろっている日中に起きるとは限りません。むしろ、職員が一人、二人しかいない夜間や休日に起きたら——そこがいちばん危ない時間帯です。そのとき、誰が指示を出し、誰が通報し、どうやって応援を呼ぶのか。手薄な時間帯を想定した段取りは、福祉施設でこそ欠かせません。夜間の地震を想定した動き方は、グループホーム夜間の地震対応|手薄な時間帯に誰が動くかにもまとめています。

3. 避難経路に、物が置かれていないか

図面の上では避難経路でも、現場では、いつの間にか荷物や車いす、備品が置かれていることがあります。車いすで通れる幅が確保されているか。段差やスロープはどうか。出口の鍵はすぐ開くか。利用者が実際に通ることを想像しながら、今日、その経路を歩いてみてください。

浸水や土砂の「想定区域」にある施設は、避難確保計画も

もう一つ、福祉施設ならではの備えがあります。浸水想定区域や土砂災害警戒区域の中にある福祉施設は、いわゆる「要配慮者利用施設」として、避難確保計画の作成と、それにもとづく避難訓練が求められています(水防法・土砂災害防止法による)。自力での避難が難しい人が利用する施設だからこそ、あらかじめ「いつ、どこへ、どうやって避難するか」を計画にしておきましょう、という趣旨です。

自分の施設がこの区域に入っているかどうかは、市町村のハザードマップや地域防災計画で確認できます。近年の大雨は、川から離れた場所でも浸水を起こします。「うちは大丈夫」と決めつけず、防災の日を、この確認のきっかけにしてください(該当の有無や手続きの細部は、立地や市町村によって異なるため、所轄でのご確認が必要です)。
当事務所は、行政機関が発信しているあらゆる情報を根拠として、貴施設の災害予想などをシュミレーションした訓練計画なども構築し訓練のサポート、計画も策定することができます。

訓練を「形だけ」にしない一日に

この時期に避難訓練を予定している施設も多いと思います。もし今年もやるなら、去年と同じ段取りをなぞるのではなく、一つだけ条件を変えてみてください。 「もし夜間だったら」「職員が一人だったら」「この出口が使えなかったら」。想定を一つ動かすだけで、訓練は”毎年の確認作業”から”本当の備え”に変わります。

利用者にとっても、訓練は大切です。急な避難は、それ自体が大きな不安になります。ふだんから体を慣らしておくことが、いざというときの落ち着きにつながる——これは、支援の一部でもあります。

安否確認と、家族への連絡も見直す

災害のときに必要になるのが、安否確認です。福祉施設の場合、確認すべき相手は職員だけではありません。利用者の安否を、ご家族へどう伝えるかまで含めて、考えておく必要があります。

  • 職員・利用者家族の連絡網は、最新になっているか
  • 大きな災害では電話がつながりにくくなります。電話以外の連絡手段(災害用伝言板、メッセージアプリなど)を決めてあるか
  • 「誰が、どの家族に、どの順で連絡するか」の役割が決まっているか

人の無事が分からなければ、その後の対応は動き出せません。防災の日に、連絡網を一度、見直しておく価値は大きいです。

防災の日を、BCPと点検の”起点”にする

防災の日のいちばんもったいない使い方は、「その日だけ意識して、翌日には忘れる」ことです。おすすめは、この日を、年間の点検の起点にすること。

  • 備蓄品(水・食料・電池・簡易トイレ・常備薬など)の使用期限を確認し、入れ替える
  • BCP(業務継続計画)を開いて、研修・訓練の記録が今年の分まで残っているかを見直す
  • 消防用設備の点検や、避難確保計画などの見直しの時期を、カレンダーで確認する

一年に一度、同じ日に同じ点検をするだけで、「気づいたら期限切れ」「気づいたら記録が抜けていた」が防げます。防災の日を、忘れないための仕組みとして使ってください。

支える職員自身の身も、守る

忘れてはいけないのが、支える側である職員自身の安全です。職員が転倒したり、落下物でけがをしたりすれば、利用者を助けることもできなくなります。避難を担う人が、まず自分の身を守れる状態にあるか——避難誘導の動線に倒れそうな棚や物が置かれていないか、暗がりでも動けるように懐中電灯やヘルメットが手の届く場所にあるか。「助ける人が無事でいられる」ことが、利用者を守るための前提です。ここも、防災の日に一度、見ておいてください。

あわせて、パートやアルバイト、入って間もない職員も、いざというときに動けるかを確認しておきましょう。ベテランがいない時間帯にこそ、災害は起こり得ます。「その場にいる誰でも、最低限の初動ができる」状態にしておくことが、福祉施設の強さになります。

今日、ひとつだけでいい

福祉施設の備えは、一日で完璧にはなりません。でも、防災の日に「ひとつだけ」動かせば、去年より確実に前に進みます。 一人の利用者の避難方法を決める。夜間の段取りを話し合う。避難経路を歩いてみる。連絡網を確認する。どれか一つでいい。

一年に一度、立ち止まって、利用者と職員の安全を考える。防災の日が、そのきっかけになればと思います。皆さんの施設と、そこで過ごす一人ひとりが、これからも無事でありますように。

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